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神戸地方裁判所 昭和55年(ワ)727号 判決

原告

滝田晴美

被告

惣木潔

ほか二名

主文

一  被告惣木潔は、原告に対し、金一三一万二三五〇円及びこれに対する昭和五五年七月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告惣木潔に対するその余の請求並びに被告惣木博人及び被告惣木幸子に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用中、原告及び被告惣木潔に生じた費用の各三分の二は被告惣木潔の負担とし、原告及び被告惣木潔に生じたその余の費用並びに被告惣木博人及び被告惣木幸子に生じた費用は原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して、原告に対し、金二〇一万八八四二円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五四年一〇月一日午後四時五〇分頃、被告惣木潔運転の原動機付自転車「神戸灘さ六〇〇九号」(以下単に本件単車という。)後部座席に同乗し、大阪府箕面市稲一二〇番地先(国道一七一号線)道路上において、被告惣木潔が右単車の運転を誤り、同方向に進行中の訴外桑野喜久男運転の普通乗用車「大阪三三に九七九二号」に追突転倒し、それがために被告惣木潔の本件単車に同乗中の原告は、左大腿骨骨折・左橈骨骨折・頭部背部打撲等の傷害を負つた。

右事故は、被告惣木潔の一方的過失により起つたものである。

2  右事故の結果、原告は、次のような損害を受けた。

(一) 治療費金一三万九五七四円

昭和五四年一〇月一日から同年同月一七日まで一七日間林病院に入院、同年同月一七日から同年一一月二二日まで三七日間神戸海星病院に入院、その費用として右金員を要した。

(二) 高校留年に伴う損害金一六四万五二〇〇円

原告は、高校に通う学生であつたが、本件事故発生のため高校を一年留年せざるを得なくなつた。その損害の明細は、次の通りである。

(1) 月謝一年分金六万七〇〇〇円(一か月五六〇〇円)

(2) 生活費一年分金九六万円(一か月八万円)

(3) 交通費一年分金二五万八〇〇〇円(一か月二万一五〇〇円)

(4) 学費その他一年分金三六万円(一か月三万円)

(三) 慰藉料金一一〇万円

(1) 入院に伴う慰藉料として金六〇万円

(2) 退院後現在までの通院に伴う慰藉料として金五〇万円

以上総計金二八八万四七七四円となる。

3  被告惣木潔は、本件事故車の運転者であり、かつ運行供用者であるから、自賠法第三条により、また被告惣木博人、被告惣木幸子は、被告惣木潔が未成年者でその法定代理人であるのに監督義務者としての監督のしかたが悪くて本件事故が生じた場合であるから、民法第七〇九条により、本件事故により生じた前記原告の損害総計金二八八万四七七四円を賠償すべきである。

4  しかして、原告は、被告惣木潔運転の単車に好意同乗したものであるから、その過失を三割として、それを前記損害額総計から控除した金二〇一万八八四二円及びこれに対する訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の遅延損害金の支払を被告らに求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は知らない。なお、仮に原告が留年したとしても、留年と本件交通事故との間の相当因果関係については、争う。

3  同3のうち、被告潔が本件単車の運行供用者であることは認めるが、その余の事実は否認する。

4  同4のうち、原告が本件単車に好意同乗したものであり、その過失が三割である旨の原告の先行自白を採用し、その余の事実及び主張を争う。

三  抗弁

1  現在までの原告の治療関係費は次のとおりであり、これらも好意同乗による減額の対象とすべきである。

治療関係費合計金六四万三〇六〇円

(一) 治療費

林病院 金二一万三一五〇円

神戸海星病院 金二二万二七一二円及び金一二万一二九八円

(二) 看護費用 金八万五九〇〇円

2  右の治療関係費は、次のとおり全額支払ずみである。

既払合計金六五万九一六〇円

(一) 自賠責保険給付金

林病院に対し、金二一万三一五〇円

神戸海星病院に対し、金二二万二七一二円

原告に対し、金一二万一二九八円

(二) 被告からの内払金 金一〇万二〇〇〇円

四  抗弁に対する認否

被告の主張する治療関係費及び支払に関する事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告らの責任

1  被告惣木潔の責任

被告惣木潔が事故車を自己のため運行の用に供していたこと、本件事故がその運行によつて生じたものであることは、いずれも当事者間に争いがなく、被告惣木潔は免責の抗弁を主張しないから、被告惣木潔は、本件事故によつて原告に生じた損害を賠償する責任を負う(好意同乗に基づく損害額の査定の点は後に触れる。)。

2  被告惣木博人及び同惣木幸子の責任について

成立に争いのない甲第三号証によれば、被告惣木潔(昭和三六年五月七日生)は、本件事故当時一八歳であり、その養父たる被告惣木博人及び実母被告惣木幸子が親権者として被告惣木潔を監督すべき立場にあつたことが認められ、これに反する証拠はない。

原告は、更に、被告惣木博人及び同惣木幸子の監督のしかたが悪かつたため本件事故が生じたものであると主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

3  好意同乗について

成立に争いのない乙第七、第八号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告と被告惣木潔とは同じ高校の同級生で友人関係にあつたものであるが、原告は以前から被告惣木潔の運転する単車に好意で数回ないし十数回同乗させてもらつてドライブなどをしていたこと、本件事故の際も、原告は被告潔から誘われて同乗し、神戸市内から大阪府の万国博記念公園付近にドライブに行き、その帰途本件事故にあつたものであること、本件事故は被告惣木潔の一方的過失によるものであり、事故自体については原告に過失はないこと、が認められ、これに反する証拠はない(なお、原告が本件単車に好意同乗したことは、当事者間に争いがない。)。

右の事実関係によると、損害の衡平負担の見地から、原告に生じた総損害の七割を被告惣木潔に負担させるのが相当である。

三  原告の傷害及び治療経過

前記のとおり、原告が本件事故により左大腿骨骨折、左橈骨骨折、頭部、背部打撲等の傷害を受けたことは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第一、第五、第一三号証、乙第一、第二号証、原告本人尋問の結果及びこれによつて被告主張のとおり昭和五六年一月頃撮影された原告の傷痕の写真であると認められる甲第一二号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五四年一〇月一日から同月一七日まで(一七日間)、豊中市の林病院に入院し、同月一七日から同年一一月二二日まで(三七日間)、神戸市の神戸海星病院に入院し、その後も通院を続け、また右退院後は松葉杖、ステツキ等によつて歩行したりしていたが、昭和五五年八月五日から同月一七日まで(一二日間)、再手術のため再び神戸海星病院に入院したこと、その結果、骨折は治癒したが、左大腿部に長さ約二三センチメートル、幅約五センチメートルの手術創、瘢痕が残存し、また腰部等の鈍痛がなお消失し去つていないことが認められ、これに反する証拠はない。

四  損害

1  治療関係費 金六七万九八三四円

(一)  治療費

林病院 金二一万三一五〇円

神戸海星病院 金二二万二七一二円及び金一二万一二九八円

(二)  看護費用 金八万五九〇〇円

原告が以上の費用を要したことは、当事者間に争いがない。

また、原告本人尋問の結果及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第一一号証によると、原告が通院及び第三回の入院に際し、雑費及び交通費として合計金三万六七七四円を要したことが認められ、これに反する証拠はない。

以上を合計すると、金六七万九八三四円となる。

2  高校留年に伴う損害 金一一三万六六一〇円

成立に争いのない甲第七ないし第一〇号証、前顕甲第一一号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は当時高校三年生であつたが、本件受傷のため通学が困難となるなどし、このため結局一年間留年せざるをえなくなつたこと、これによる損害として、次のものを要したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(一)  授業料及び諸会費 金五万一六一〇円

(二)  その他の学費 金六万円(やや判然としないが、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により一か月金五〇〇〇円と認める。)

(三)  交通費 金六万五〇〇〇円(原告本人尋問の結果によれば、バス代一日往復二六〇円が認められ、通学は一月二五日、休暇を除き一〇か月とした。)

(四)  生活費 金九六万円

生活費に関する証拠は提出されていないが、そもそも一年留年することにより、就職して収入を得ることが一年遅れたことになるわけであるから、その収入分を逸失利得として請求しうると解されるところ、原告は積極損害として請求しているものであるが、前記(一)ないし(三)に原告主張の生活費額年間九六万円を合わせても、原告の年齢の平均給与額に満たないことは明らかであるから、生活費としては、原告主張のとおり年間金九六万円と認めてさしつかえないと解される。

3  慰藉料 金一〇〇万円

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件事故のため原告が相当の精神的苦痛を受けたことが明らかであり、前認定にかかる原告の受傷の程度、入・通院等の期間、一定期間歩行に困難をきたしたこと、一年間留年を余儀なくされたこと、原告が女性であるのに大腿部に瘢痕が残つたこと等を考慮すると、その慰藉料としては金一〇〇万円をもつて相当と認める。

4  以上の合計は金二八一万六四四四円となるところ、原告の好意同乗の点を斟酌すると、原告が請求しうる額はその七割に相当する金一九七万一五一〇円(円未満切捨)と算出される。

そして、自賠責保険及び被告の内払として合計金六五万九一六〇円が填補されたことは、当事者間に争いがないから、これを控除すると、残額は金一三一万二三五〇円と算出される。

五  結論

以上のとおりであるから、被告惣木潔は、原告に対し、金一三一万二三五〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五五年七月二〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

よつて、原告の被告惣木潔に対する請求を右の限度で正当として認容し、原告の同被告に対するその余の請求並びに被告惣木博人及び同惣木幸子に対する請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩井俊)

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